手術承諾書について③~証拠としての役割~
弁護士 小島梓
当事務所では,ペットのオーナー様から動物病院が訴えられてしまったケースにも数多く携わってまいりました。訴訟の中で,原告であるペットのオーナー様より主張されることが多いのが,いわゆる「獣医師の説明義務違反」です。具体的には,獣医師より麻酔・手術の内容,危険性について聞かされていなかった,聞いていたら手術を受けなかったというものです。
なお,獣医師の先生方のオーナー様に対する説明義務についても本コラムにて連載しておりますので(獣医師の説明義務について①~④),これを機会にご覧になってみてください。
当事務所では,このような主張が出て来てしまう訴訟において,手術承諾書が証拠として重要な役割を果たすと考えております。
そこで,今回は,手術承諾書の訴訟における役割についてご説明したいと思います。
説明義務違反の主張が出た時などに,当事務所が,獣医師の方に事情を伺いますと,少なくとも口頭では,オーナー様に十分な説明をしているということがほとんどです。
ではなぜ,このような主張が出て来てしまうのでしょうか。
まず,一つは実際には説明を受けていたのに,理解できていなかった,受けた説明を忘れてしまったということが考えられます。
さらに,説明をした証拠が残っていないので,自由な主張が出やすいということもあります。
その結果,せっかく,獣医師が口頭により十分な説明を尽くしていても,それが立証できず,裁判所に説明義務を尽くしていたと認定してもらえない,ひいては,説明義務違反が認定されてしまうというケースが出てきます。
元々,ペットのオーナー様に対して,説明をしていなかったという場合には,防ぎようのないことなのですが,せっかく口頭では説明していたのに,その証拠がないということで,獣医師の適正な対応が認められないというのはとても残念なことだと思います。
しかし,このような事態になった時でも,獣医師が説明したことが立証できる手術承諾書等の客観的な証拠が提出できれば,説明義務違反の認定を回避することが可能になります。
このように,手術承諾書は,獣医師,ひいては動物病院をお守りする道具にもなり得るものです。
手術承諾書は,本コラム「手術承諾書について②~ペットのオーナー様とのトラブル防止~」にてご紹介したように,ペットのオーナー様にとってのみならず,動物病院や獣医師の先生方をお守りするためにも非常に重要かつ,必要性の高いものです。
しかし,「手術承諾書」という書面をとればいいという話ではなく,その内容,取得方法が重要になってまいります。
次回は,手術承諾書の内容,その取得方法についてご紹介します。