獣医師のカルテ④~有益な記載(1)~
弁護士 小島梓
今回から証拠として役立つカルテとするための有益な記載をご紹介していきます。
大前提として,法律に定められている必要的記載事項は必ずご記載をお願いいたします。必要的記載に事項については,「獣医師のカルテについて①カルテの記載事項と保存期間」のコラムの中でご説明しておりますので,これを機に一度この点について不足はないか見直されてみてください。
今回からご紹介していくのは必ずしも法的には必要的記載事項とまでは言えないが,証拠という観点から有益であるため記載をお勧めするというものです。
まず,一点目は,獣医師の治療に関する説明内容です。
先生方もご存知の通り,獣医師にはオーナーに対する様々な説明義務があります(「獣医師の説明義務違反について①」)。
そして,訴訟では,原告であるオーナーから,必要な説明をしなかったので,説明義務違反であるという主張がなされるケースが非常に多いです。裁判例を「獣医師の説明義務違反について②」の中でご紹介しておりますのでこちらもご参照ください。
前回のコラムでお伝えした通り,裁判では,事実の主張のみならず,その主張を裏付ける証拠が要求されます。すなわち,どんなに事実として,先生方がオーナーに説明をされていたとしても,それを立証できなければ,説明はなされなかったものとして扱われてしまう可能性があります。
このような事態になったとき,カルテに治療に関する必要な説明の記載がなされていると,カルテのみで,先生方が説明義務を果たしていたことを立証しうる状態になります。裁判所はカルテの記載内容は特段の事情のない限り,事実として採用してくれる可能性が高いからです。
このように,カルテに治療に関する説明の記載があれば,先生方が必要な説明をしたことの立証が容易になり,先生方をお守りすることにつながるため,可能な範囲で,治療に関する説明をカルテに記載することをお勧めしている次第です。
ただし,当然のことながら,この説明をある程度記載していこうと思うと,一定の文量の記載が必要になってまいります。先生方が日々の獣医療業務で手いっぱいの状態であることに鑑みますと,手書きのカルテでは限界もあろうかと思います。そのため,可能であれば,電子カルテへの移行を検討いただくのも一つの方法かと思います。
電子カルテにもメリットデメリットはございますので,色々と迷われることがあればご相談ください。次回も証拠として役立つカルテとするための有益な記載をご紹介していきます。