コラム

証拠保全 獣医療訴訟

証拠保全①

弁護士 長島功

 今回からは、証拠保全について、何回かに分けてご説明をしようと思います。

 証拠保全というのは、民事訴訟法という法律に規定のある制度です。医療ドラマなどで、裁判所の職員が病院に突然来て、カルテなどの診療記録をコピーしたり、写真に撮ったりするシーンをご覧になったことがあるかもしれませんが、あれはこの証拠保全を実施している場面です。そして、動物病院でも、それほど多い訳ではありませんが、この証拠保全がなされるケースがあります。獣医師の方々は、この証拠保全を受ける立場ですが、これがどういった制度なのか、その概要を知っておくだけでも、いざというときに慌てずに済みますので、解説してみたいと思います。
 初回は、この証拠保全というのが、どのような目的でなされるものなのかについてご説明します。

 裁判では、証拠調べがなされますが、裁判を起こすには時間がかかりますし、裁判でも証拠調べがすぐにされるとは限りません。そのため、裁判での証拠調べを待っていたのでは、その証拠が無くなってしまったり、変化してしまう等、将来の証拠調べが困難になってしまうケースがあります。
 そこで、証拠調べを前倒しして、その結果を保全しておく手続がこの証拠保全です。

 医療機関での診療記録の証拠保全についていえば、例えば法律上義務付けられているカルテの保存期間が切れそうで、このままだと破棄されて無くなってしまうかもしれない、或いはカルテの内容を改ざんされるかもしれないといったことを理由にオーナーから申立がなされます。
 また、証拠保全というのは、こういったカルテの証拠保全以外でも、様々なケースで使われます。
 例えば重要な証人の方が、重い病気にかかっていて、裁判まで待っていると亡くなってしまうかもしれない場合には、証拠保全として、裁判官が裁判所外に出向いて、証人尋問をし、それを記録に残したり、或いは建物の現状が重要な証拠であるにもかかわらず、解体予定があり、このままでは建物が無くなってしまうような場合には裁判官が現地に行き、その現場を検証して記録に残すといった場面でも利用されます。

 次回は、具体的に証拠保全の決定がなされると、現場でどのようなことがされるのかについて、お話ししたいと思います。