コラム

説明義務 裁判例 オーナーとのトラブル

ペットの看取りは法律上保護されるか

弁護士 長島功

 近い将来、ペットが亡くなることがある程度予測できたにもかかわらず、それをオーナーに説明しなかった結果、オーナーがペットを看取ることができなかった場合、獣医師に何か法的な責任は生じるのでしょうか。

 獣医師には、オーナーに対し説明義務がありますが、その中には予後についても説明する義務があると考えられます。もちろん、予測できないような容態の急変に関してまで常に説明をしなければならない訳ではありませんし、限界はあろうかと思います。ただ、亡くなる可能性がある程度予測できるのであれば、このまま病院で終末期医療を施すか、自宅で家族と一緒に過ごすか、といった選択をオーナーに与えるためにも、その判断に必要な情報として悪い予後を説明する義務が生じることは考えられます。
 そして、その説明義務違反によって、オーナーがペットを看取ることができなかったという事態が生じた場合には、獣医師に損害賠償責任が生じる可能性があります。

 実際の裁判例でも、死亡を見守る利益が侵害されたとして損害賠償責任が認められた裁判例があります。
 この事案は、来院時、死亡の危機に瀕した状態であったにもかかわらず、数日で退院できると告げて、ペットを預かった結果、オーナーがペットの死に立ち会えなかったという特殊なケースですが、判決では、オーナーにはどう看取るかを選択し、かつ、その死亡を見守る利益が法律上保護された利益としてあると判示し、慰謝料30万円が認められています(他にも同様のことをしていたようで、そういった悪質性も考慮したようです)。

 悪い予後は、ストレートに言いにくい場面もあろうかと思いますが、特に亡くなってしまうことが予測されるケースでは、対応を誤るとトラブルになることはもちろん、損害賠償の対象にもなりかねませんので、改めてご注意いただければと思います。