コラム

労務問題

懲戒処分①

弁護士 長島功

 多くのスタッフを雇用している動物病院ではもちろん、獣医師が1人の病院でも、受付の方や動物看護師の方を雇われている病院がほとんどではないかと思います。そのため、動物病院を運営していくにあたって、雇用の問題は常につきまとうもので、雇用の問題が一度顕在化しますと、病院運営に大きな影響を与えてしまいます。

 そこで、今回からは雇用問題の中でも特にご相談の多い懲戒処分について、解説をしていこうと思います。

1 懲戒とはそもそも何か
 懲戒とは、労働者が企業の秩序を乱したことを理由として行われる一種の制裁罰で、判例でもそのように定義されています。労働者には、様々な権利が保証されていたり、自由というのも認められてはいるのですが、とはいえ、スタッフが好き勝手に自由に行動すると企業として秩序が保てなくなり、事業は崩壊してしまいます。そのため、懲戒というのは、スタッフが病院のルールを破った場合に、ペナルティを課すことで、院内の秩序を維持し、病院を守るもの、ということができると思います。
 懲戒と聞くと、懲戒解雇が真っ先に思い浮かぶかと思いますが、他にも様々な種類があり、一般的には、戒告・譴責・減給・出勤停止・降格といったものなどがあります。
 これらについては、また別の回で説明していこうと思います。

2 懲戒処分をするために必要なもの(総論)
 このように、懲戒というのは、病院運営に必要不可欠なものなのですが、スタッフに問題行動がありさえすれば、自由にできるのかというと、そうではありません。
 むしろ、スタッフに罰を与えるもので、スタッフに大きな不利益を課すものですから、懲戒処分を行うにあたっては、多くのルールが決められています。
 そこでまずは、懲戒処分をするために必要なルール(懲戒の要件)をみていこうと思います。大きくは2つあります。
(1)就業規則の懲戒事由に該当すること
 懲戒は、企業の秩序を守るために企業側に当然認められる権利だと考える学説もあるのですが、一般にはそのようには考えられておらず、あくまでスタッフとの合意や就業規則に定めを置き、契約内容になることで、はじめて認められるものと考えられています。
 そのため、就業規則の中にどういった場合に懲戒するかという懲戒事由が定められていて、その懲戒事由に当たらないと懲戒することはできません。
(2)懲戒権の濫用に当たらないこと
 また、就業規則の懲戒事由に当たるとしても、常に懲戒が許される訳ではなく、濫用とされないことも必要です。労働契約法の15条では濫用にあたる場合には、その懲戒処分は無効としています。そして、濫用にあたるか否かは、①懲戒処分の重さが相当なものか、②罰という性格から求められるルールに反していないか、③正しい手続を踏んでいるかというもので判断します。

 次回は、これらのルールについて、もう少し詳しく解説していこうと思います。