コラム

労務問題

懲戒処分②~懲戒処分の要件~

弁護士 長島功

 前回は懲戒処分を行うためのルールについて大まかに触れましたが、今回からはそのルールについて、もう少し詳しくみていこうと思います。
 まずは、就業規則の懲戒事由に該当すること、についてです。

(1)就業規則の定め

 就業規則に懲戒に関する定めがなければなりませんが、具体的に何を定めておく必要があるかというと、判例では、「種別」と「事由」を定めておかなければならないとされています。
 ですので、どういった懲戒処分(戒告、減給、解雇等)があり得るのかや、どういった場合に懲戒事由にあたるのかを就業規則に定めておかなければなりません。
 これにより、定めた懲戒事由以外の理由で懲戒をすることはできなくなるので、一般的には個別的な懲戒事由に加えて、「その他、前各号に準じた自由があるとき」など包括的な懲戒事由も定めておくことが多いです。

(2)就業規則の周知

 また、忘れがちですが、就業規則は定めておけば良いという訳ではなく、それをスタッフに周知させておかなければなりません。この周知がなかったことで、懲戒処分が無効とされた裁判例もあるところなので、注意が必要です。 
 労働契約法7条でもこの周知があって、はじめて契約内容になるとしています(周知がなくても、契約内容になるケースもありますがあくまで例外ですので、周知はしておくべきといえます)。
 周知の方法は様々な方法があろうかと思いますが、労働基準法106条1項では、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付すること、その他厚生労働省令で定める方法での周知が求められています。
 ですので、紙媒体で掲示、交付、備え付けるケースもあれば、データでいつでも誰でもアクセスできるところに置いておき、それをスタッフに説明しておくという方法もあろうかと思います。
 これは、懲戒処分を有効にするために必要なものですが、それ以前に、スタッフにルールの内容が周知されていないと、院内の秩序を守るというそもそもの目的が達成されませんので、今一度確認をしていただければと思います。

(3)懲戒事由に該当すること

 そして、最後に定めた懲戒事由に該当することが必要ですが、これは形式的に判断するのではなく、実質的に判断することとされています。
 もう少し具体的にいうと、形式的には懲戒事由にあたる場合でも、病院に何の影響もなかったような場合には、該当しないとされることがあります。そのため、懲戒事由に当たるというためには、その違反行為に加えて、業務や規律に支障がでたり、損害が発生するなど、病院の秩序を現実に侵害したことや、少なくともその実質的な危険性があることが必要とされています。