医師の診療を受診させるべき場合
弁護士 長島功
当該スタッフの勤務中の言動に異常が見受けられ、業務に支障が出るケースがあろうかと思います。
情緒不安定で、急に泣き出すなど、周囲のスタッフや飼い主さんも困惑してしまうようなケースもあり、使用者である獣医師の先生からは、精神的な疾患も疑われるとしてご相談いただくことがあります。
このような場合、まずは正確な病状把握のため、疾患の有無・内容・程度を確認すべく、医師への受診をさせることは必須といえます。
そのため、まずは、当該スタッフとよく話し、医師への受診を促すことをするべきですが、当該スタッフがこの医師への受診を拒否することがあります。特に精神的な疾患が疑われる場合で、当該スタッフに自覚がないようなケースでは、任意の協力が得にくいことがあります。
ではこのような場合、動物病院側は、医師への受診を命じ、それに従わないとして処分をしたりすることはできるのでしょうか。
以下では、そもそもスタッフに健康診断の受診義務があるのか、あるとして従わない場合に処分できるのかについて解説していこうと思います。
1 受診義務について
まず、受診義務があるかですが、就業規則に根拠規定があるような場合は、合理性・相当性が認められる限度で、スタッフには動物病院側の命令にしたがって受診する義務があると考えられ、そのように判断した判例もあります。
また、仮に就業規則に定めがないような場合であっても、労使間の信義則ないし公平の観念に照らして、合理的かつ相当なものなのであれば、受診を命じることができ、スタッフにはそれに応じる義務があるとされており、同様の判断をしている裁判例もあります。
ですので、不当な目的をもって行うことは当然許されませんが、客観的状況から当該スタッフの受診が必要と考えられる状況なのであれば、就業規則の定め如何にかかわらず、動物病院側は医師の受診を命じることができ、スタッフはそれに応じる義務があるといえます。
2 処分の可否
では、その受診命令に応じないような場合、当該スタッフを懲戒処分にすることはできるのでしょうか。
この点については、就業規則に該当する懲戒事由が定められているのであれば、処分を行うこと自体は可能といえます。
とはいえ、この問題は処分を行えば解決するようなものではなく、一番大切なことは、当該スタッフの身体のためにも、医師の受診をしてもらうことです。
そのため、時間をかけて丁寧に受診を促す指導をするべきで、安易な処分はできるだけ避けるべきといえます。
また、仮に受診命令を出さざるをえないケースであったとしても、従わないとして即懲戒処分を行うのではなく、何度か命令を出し、それでも応じない場合に比較的軽い懲戒処分を行うのが望ましいと考えられます。