コラム

裁判例

馬が受傷・死亡してしまった場合の賠償額②取引価格の平均値

弁護士 幡野真弥

 昭和50年10月13日、北海道の門別で、牧場から厩舎に収容する途中に、当歳馬(アラブ系の雌の競走馬)が、道路上で二輪車と衝突し、死亡してしまったという事件をご紹介します(札幌地裁昭和53年3月27日判決)。

 馬の飼い主は、本件の馬は第三者に300万円で売渡す契約が成立していたとして、馬の価値は300万円であると主張していましたが、その売買契約書は裁判の提起のために作成されたものであったこと等の事情から、裁判所は、馬の価値は300万円であると認めませんでした。
 裁判所は、本件の馬について、競走馬として身体的欠陥その他の取引を妨げる事由も認められない反面、これが、特に優れた素質等を有している事由も認められないので、ほぼ平均的価値の馬であると認めるのが相当として、これまでの取引事例(牝馬の競売り結果の平均額)等に照らして、本件当歳馬の価値は、金100万円と判断しました(昭和51年度のせり売りの結果によると、門別地方における雌馬は、平均金95万8919円で売却されていました)。

 類似の商品の平均価格を損害額と認定する裁判所の判断は、合理性があると思われます。
 ただし、控訴審である札幌高裁昭和56年4月27日判決は、上記判決から20万円減額し、馬の財産的価値は80万円としました。減額の十分な理由は控訴審の判決文からは読み取れませんでした。