財産開示手続
弁護士 長島功
動物病院における未収金について、これまで法的手続として、支払督促の申立てに関し、コラムでご説明をしてきました。ただ、支払督促の手続を経ても、任意に支払がなされない場合は、債務者の財産から強制的に回収する強制執行の手続を執らなければなりません。
債務者に資力がなければ回収はできませんが、仮に資力があったとしても、強制執行をするには、その財産を特定しなければ行うことはできず、財産が不明の場合は、その調査が必要になってきます。
そこで、今回からは債務者の財産を調査する方法の1つとして、財産開示手続がありますので、これをご紹介していこうと思います。
1 法改正
この財産開示手続は、平成15年の民事執行法の改正により導入されたものです。
これは、一定の債務名義をもっている債権者が裁判所に申立てを行うことで、裁判所が債務者を呼び出し、その財産について陳述をさせるという手続です。
これにより、債務者の資産の有無や、その所在を明らかにし、将来の強制執行につなげることができます。
しかしながら、実効性がない等として、利用件数もあまりなく、様々な制度上の問題点が指摘されていました。
そこで、令和元年に再び法改正がなされ、より実効性を高めた制度となりました。
今回のこの改正により、動物病院における未収金回収にも大きな影響を与えうると考えますので、従来の制度と比較してどういった点が変わり、より使いやすくなったのか、その概要をまずはご説明していきます。
2 旧制度との比較
動物病院における未収金の回収との関係でも意味のある、大きな改正点としては、以下の点が挙げられます。
(1)申立できる債権者の拡大
まず、この財産開示手続の申立ては、単なる債権者では利用できず、一定の債務名義をもっている者でなければなりません。
債務名義というのは、強制執行をするために必要となる公的機関が作成した文書のことで、典型的には、裁判をして取得する確定判決があります。
そして、旧制度ではこの債務名義に支払督促が含まれていませんでしたが、今回の改正では、申立権者が拡大され、仮執行宣言付支払督促の場合も申立てが可能となりました。
動物病院における未収金は、比較的少額にとどまることが少なくなく、弊所のコラムでも飼い主様から任意の支払を受けられない場合には、その利便性から支払督促をお勧めしてきましたが、債務名義を取得した後の財産開示手続も利用が可能となりましたので、支払督促は一層、動物病院における未収金回収に資する手続になったといえます。
(2)罰則の強化
この手続は、裁判所が債務者を呼び出し、裁判所でその財産について陳述をさせる手続です。
しかしながら、債務者が出頭しない、宣誓をしない、出頭しても宣誓した者が陳述をしない、虚偽の陳述をするといった場合、その実効性はなくなってしまいます。
そのため、一定の場合には、何らのペナルティが必要となってくるはずですが、旧制度では30万円以下の過料が定められているだけでした。
そこで、今回の改正では、正当な理由なく出頭しない等の場合には、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金に処することとし、罰則を強しました。
これにより、この手続が実効性の高いものになりましたので、動物病院での未収金回収の場面でも役立つものになったといえます。