動物病院での注意・指導とパワハラ
弁護士 長島功
動物病院のような命や健康を預かる職場では、緊迫する場面があったり、ミスが重大な結果を招いたりすることもあるため、どうしても獣医師から看護師への指導・注意や指示が強くなりがちで、どこからがパワハラになってしまうかの判断が難しいことがあります。
参考になるものとしては、人の病院に関するものですが、東京地裁平成21年10月15日の裁判例があります。必要な指導・教育を行わないまま職務に就かせ、業務上の間違いを誘発させたにもかかわらず、あえて原告(病院事務員)の責任として上司が叱責したとの原告の主張に対し、裁判所は次のような判断をしています。
・原告の事務処理上のミスや事務の不手際は、いずれも正確性を要請される医療機関においては見過ごせないものである
・これに対する都度の注意・指導は、必要かつ的確なものというほかない
・一般に医療事故は単純ミスがその原因の大きな部分を占めることは顕著な事実であり、原告を責任ある常勤スタッフとして育てるため、単純ミスを繰り返す原告に対して、時には厳しい指摘・指導や物言いをしたことが窺われるが、それは生命・健康を預かる職場の管理職が医療現場において当然になすべき業務上の指示の範囲内にとどまるものであり、到底違法ということはできない
ただし、如何に病院という特殊な環境下での指導・叱責であったとしても、ミスの内容や程度、指導・叱責の必要性などから、必要かつ相当な範囲を超えたものとして、パワハラに該当してしまうことはあります。また、罵倒や人格を否定するような発言は、当然許されるものではありません。
冒頭で記載したとおり、動物病院ではスタッフのミスに対して指導・叱責が強くなりやすい環境にはあり、パワハラの指摘を受けやすい職場ですので、お困りの動物病院様は一度ご相談ください。