動物愛護法⑩~獣医師による通報義務(3)~
弁護士 小島梓
前回に引き続き,獣医師の通報対象となる動物について確認していきたいと思います。「獣医師は、その業務を行うに当たり」「虐待を受けたと思われる動物を発見したとき」も通報する義務を負うことになりました。
今回は,虐待を疑われる動物というのは具体的にどういう動物かについて,他の規定も参照しながら確認していきます。
(1)「虐待」とは
動物愛護法において規制される虐待には大きく二つの種類があると考えられています。
ア 積極的(意図的)虐待
→やってはいけない行為を行う、行わせる。
イ ネグレクト
→やらなければならない行為をやらない。
(2)「虐待」行為の具体例
動物愛護法においては,愛護動物に対し虐待した者は,1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処すると定められています(動物愛護法44条2項)。当該規定には,以下のように虐待行為の例示がなされています。
①みだりにその身体に外傷が生ずるおそれのある暴行を加え、又はそのおそれのある行為をさせること(例)殴る、蹴る、熱湯をかける、暴力を加える
②みだりに餌や水を与えないこと
③みだりに酷使すること
④その健康及び安全を保持することが困難な場所に拘束することにより衰弱させること
⑤飼養密度が著しく適正を欠いた状態で愛護動物を飼養し,もしくは保管することにより衰弱させること
⑥自身で飼養し、又は保管する愛護動物が疾病にかかり、又は負傷したものの適切な保護を行わないこと
⑦排せつ物の堆積した施設又は他の愛護動物の死体が放置された施設であって自己の管理するものにおいて飼養し、又は保管すること
⑧その他の虐待を行った場合(例)心理的抑圧,恐怖を与える行為など
なお,2019年の改正では,①⑤の例示が加わり,罰則には懲役刑が加えられることで厳罰化されています。⑤については,特に一部のペットショップなどで劣悪な環境で多数の動物が展示されているということが社会問題化したことを受けて,虐待の例の一種として具体的に加わったものです。
上記はあくまで具体例ですので,上記具体例に当てはまらないとしても,積極的虐待やネグレクトに該当すると思われるケースはあり得ます。
獣医師の先生方には,これらを踏まえて,「虐待」を受けたと思われる動物を発見した場合には,通報を検討いただく必要があります。
そこで,次回は実際に通報する必要が生じた場合に,どのように動いていただくべきかということをご説明します。