長期間経過後の懲戒処分
弁護士 長島功
動物病院からのご相談で、スタッフの懲戒処分についてご相談を受ける際、問題行動について聞き取りをさせていただくのですが、かなり前の言動を問題にしなければ懲戒事由がないということもあります。
そこで今回は、非違行為から時間が経過していても、懲戒処分を行うことができるのかということについてお話ししていきます。
まず、法律の明文で、懲戒処分に明確な時間制限というものは設けられていません。
刑事事件などでは、時効というのが問題となり、時間的な制限がある場合もあるのですが、懲戒処分にはこういった制度はないです。
しかし、この懲戒処分も一種のペナルティのような側面がありますので、例えば何年も前の非違行為を取り上げられて懲戒処分をするというのは、恣意的で濫用的な感じがします。
また、懲戒処分というのは、病院内の規律や秩序を維持するためのものですから、あまりに非違行為から時間が経過している場合には、そもそも懲戒権を発動して規律や秩序を維持する必要があるのか疑問です。
そこで、長期間が経過した後の懲戒処分は、場合によっては懲戒権の濫用として無効になると考えられており、実際裁判例でも同様の判断がなされています。
非違行為から約5年が経過した事案ですが、使用者側にいつ懲戒権を行使するかについては裁量があるとしつつも、①長期間の経過によって、企業秩序が回復し、その維持のために懲戒処分を行う必要性が失われた場合、あるいは、②合理的な理由もなく著しく長期間が経過して懲戒権を行使したことにより、懲戒処分は行われないであろうとの労働者の期待を侵害し、その法的安定性を著しく不安定にするような場合などには、例外的に懲戒権の濫用になるとしました。そして少なくとも②にあたるとして、懲戒権の濫用であると判断しています。
なお、具体的にいつまでに行うべきかについては、明確な基準がある訳ではなく、上記の約5年より短いものでも無効としているものはあり、できるだけ速やかに調査・処分を行うべきといえます。また、懲戒処分はスタッフの反省や問題点の改善の契機にもなるもので、その意味でも放置は望ましくありません。
仮に、処分に時間がかかるのであれば、スタッフに間違った期待を抱かせないためにも、処分はあくまで保留にしていることを伝える等の対応をすることも検討すべきです。