コラム

裁判例

馬が受傷・死亡してしまった場合の賠償額⑥逸失利益と種牡馬としての価値

弁護士 幡野真弥

 今回は、札幌高裁平成19年3月9日判決をご紹介します。
 事案の内容は、ばん馬が瑞鳴症に罹患していたので、平成13年4月に喉頭形成術を受けさせたところ、獣医師が縫合針と縫合糸を残置するなとしたため、排膿したり異物性瘻管が形成され、結合組織の肥厚が生じるなどし、平成13年10月に安楽死をすることになったというものです。

 裁判所は、
 ①馬が死亡するまでの間の逸失利益
 ②馬が死亡した時点の逸失利益
 ③馬が生存していたと仮定したときに、引退時の種牡馬としての価値
 の3つの合計を馬の価値と判断しました。

 ①から③については、以下、裁判所の計算方法を挙げます。
 最終的には、①から③の合計1785万7527円が、馬に関する損害と判断されました。

①休業損害(平成13年7月から10月までの損害)  178万6120円
・手術が奏功していれば術後3ヶ月でレースに復帰できた。
・本件馬の平均収入額は、1レース当たり平均22万3265円だった。
・本件手術後が成功していれば、平成13年7月から10月にかけて8レースに出走できた。
・計算式:22万3265円×8回=178万6120円

②死亡逸失利益(平成13年10月から馬の引退時期までの損害) 784万4382円
・本件馬が平均引退時期に引退したと仮定する。
・ばんえい競馬における4歳馬の平均引退時期は8.2歳。
・本件馬は,死亡時4歳であったから8歳まで4年間の逸失利益を計算する。
・本件馬の年間利益(年間賞金獲得額から経費を控除)は276万5300円。
・4年間に対応するライプニッツ係数は3.5459
・過去と同率の勝率を将来も維持できる可能性があるとは断定できないこと、加齢によって走力が低下することから、逸失利益の計算にあたって2割を減じる。
・計算式 76万5300円×3.5459×0.8≒784万4382円

③種牡馬としての価値  822万7025円
・本件馬は、手数料を含め500万円で購入した馬だった。
・本件手術前の通算勝率は3割であった。
・本件馬を知る調教師及び騎手が手術前の交換価値を1500ないし2000万円と予想していた。
・本件馬は、8歳馬として引退する際,少なくとも,1000万円の売却価値があった。
・4年間のライプニッツ係数は0.82270247
・計算式 1000万×0.82270247 ≒ 822万7025円