電子カルテの改ざんが認められた事例
弁護士 長島功
動物病院でも近年は、電子カルテを使用されている先生方は多いと思いますが、電子カルテは修正がしやすく、改ざんを疑われてしまうケースも多いです。法律で診療簿への記載は法的義務とされており、特段の事情がない限りは記載内容は真実と考えられますので、改ざんが裁判で認められるケースはそう多くはありません。
とはいえ、改ざんが認定されてしまうケースもあります。人医のケースですが、大阪地裁平成24年3月30日では、うつ病と診断された患者に精神安定剤等を処方していたところ、過剰服用で亡くなってしまった事案で、電子カルテの改ざんが認められているため、どのようなケースだったかをご紹介したいと思います。
1 事案の概要
うつ病と診断した患者(A女)に対して、抗うつ薬等を処方していたところ、過量服用をしたことから、医師はA女に対し、夫と共に受診することを指示し、夫に対し薬剤の管理を依頼した(なお、夫もその後同じ医師よりうつ病と診断されている)。
医師は、その後複数回、A女又は夫から過量服用をした事実を聞いていた。
また、A女は鍵のかかった金庫をこじ開け薬剤を過量服用し、それを知った夫もやりきれなさから薬剤を過量服用し、救急搬送され入院となる出来事があり、以降夫は薬の管理を一切行わなくなった。
その後、医師は夫が薬の管理を十分にできないことや、A女が過量服薬した事実を認識しながら、一度に服用しても致死量には達しないと判断した抗うつ薬を処方し続けた。
そうしたところ、A女は抗うつ薬や夫に処方されていた精神安定剤を過量服用し死亡したことから、夫らが医師の服薬管理に関する指導義務違反などを理由に損害賠償を請求した。
2 裁判所の判断
原告は医師の服薬管理に関する指導がなかったと主張し、薬剤の管理を行うよう指導した旨のカルテの記載は改ざんされたものと主張したことから、カルテの改ざんが1つの争点となりました。
そしてこの点に関し、裁判所は、概要次のような点を挙げ、改ざんを認定しました。
・患者の死亡後に書き換えがなされている
・電子カルテでありながら、書き換えた際に書き換え前の記録が保存されない設定となっていた
・開示前にカルテ内容を確認しようと考え、カルテの内容を確認した上、明らかな記載漏れや誤字のみを訂正したと医師は弁解しているが、実際には上記カルテのうち、「処方・手術・処置等」以外の部分のうちの一部のみにつき「登録」キー(新たにカルテのデータを保存するもの)をクリックしており、上記弁解は不合理である
・夫がA女に処方された薬剤の管理をしなくなっていたいたり、自らの抑うつ状態の悪化で出勤が困難な状態であることを医師に訴えていたことからすると、そのような夫が医師から薬剤の管理を徹底するよう指示されて、そのままこれを了承していたとは考えられない。
といった点を挙げて、カルテの開示請求を受けた後、カルテを改ざんして付加したものと認められると判示しました。
3 改ざんを疑われないために
カルテの記載は、専門家が記載をするものであって、獣医療訴訟でも、基本的には信用性の高い書面になります。
そのため、裁判でカルテ改ざんの主張が飼い主側よりなされたとしても、基本的にはカルテの記載内容は真実である前提で判断はされます。
もっとも、上記のように加筆訂正の時期や記載内容・加筆訂正理由の合理性、電子カルテのシステムといった点から、改ざんの認定がなされてしまう場合もあるため、注意が必要です。
誤記や記載忘れなどはあると思いますので、後日加筆修正することは、実際上、獣医師の先生方もされていると思いますし、それ自体行ってはいけないという訳ではもちろんありません。
しかしながら、飼い主よりカルテ開示請求や、損害賠償請求などがなされた後のタイミングでの加筆修正は、基本的には控えた方が良いですし、一度弁護士にご相談されることをお勧めします。
また、電子カルテの場合、紙カルテと異なって加筆修正が一見分からないこともあり、不用意な加筆修正を行いやすい側面はあるのですが、書き換えた時期や書き換え前の内容が記録されないシステムを取っている場合には、改ざんを疑われることにつながりやすいです。
真実を記載しており、最終的にカルテの改ざんが認定されないとしても、改ざんが1つの争点になってしまうことで、紛争解決が長引くことにもつながるため、ご参考にしていただければと思います。