コラム

裁判例

ペットサロンの経営が、元従業員に対し、営業秘密を使用したと主張して、顧客への営業行為の差止等の請求をした裁判例

弁護士 幡野真弥

 東京高裁平成17年 2月24日判決をご紹介します。

 Xは、ペットサロンを経営していましたが、約10年間雇用していた従業員2名が退職し、10日後に500メートル離れた同じ国道沿いにペットサロンを開店しました。 

 Xは、Yらが、Xの営業秘密である顧客名簿や個々の顧客情報が記載された情報カードを、自身のペットサロンの営業に使用したとして、顧客名簿記載のペットオーナーへの営業行為の差止めや顧客名簿等の廃棄を請求し、裁判となりました。

 Xは、「店舗の営業上、顧客名簿と情報カードは極めて重要なものであり、明確な「部外秘」の表示がなくても、Yらは営業秘密であることを十分認識していた。顧客名簿と情報カードは、いずれも、受付カウンター下の扉の内側に、扉に鍵を掛けて保管され、Xの管理の下、長年勤務し、Xの信頼できる店長クラスの一部のベテラン従業員以外には接することが許されなかった」などと主張していました。

 しかし、裁判所は、Xの主張について、これを認めるに足りる証拠はないと排斥し、むしろ、本件情報カードは、Xの店舗の日常の業務において、ベテランの従業員よりは、むしろ新たに採用された従業員に利用されていたものである、と認定しました。
 また、「本件顧客名簿についても、これにアクセスできる者が制限されていたとは認め難い。」と判断し、顧客名簿や情報カードは、いずれも秘密として管理されていたものであるとは認めることができず、営業秘密に該当しないと判断しました。

 営業秘密を侵害する行為については、不正競争防止法に基づき、差止等を請求することができます。
 ただし、「営業秘密」といえるためには、秘密として管理されていることが必要です(他にも要件はあります)。スタッフであれば誰でも見ることができるような情報の管理状況では、「秘密として管理されていた」とはいえず、不正競争防止法に基づく請求を行うことはできません。