獣医療に関する裁判例~①獣医師が、ステロイド剤を投与する義務、②高次医療機関に転医させる義務に違反したと判断された事例
弁護士 幡野真弥
今回は、横浜地方裁判所の、平成18年6月15日の裁判例です。
■事案の概要
4月14日、オーナーは、ダックスフンド犬にできた水ぶくれのような出来物の治療を受けさせるため、来院しました。18日、ダックスフンド犬は入院し、獣医師は感染症に対する治療を続けましたが、ダックスフンド犬の状態は悪化し、間質性肺炎及びDICを発症し、一時瀕死の状態になり、5月9日に大学附属の動物病院に転院しました。
転院先で、感染症ではなく免疫異常による疾患(無菌性結節性皮下脂肪織炎)であると診断され、ステロイド剤(プレドニゾロン)等を投与され、ダックスフンド犬は体調が回復しました。
オーナーは、獣医師が免疫異常のスクリーニング検査を行い、免疫異常を原因とする疾患であると診断し、ステロイド剤を投与するべきであった、5月9日よりもっと早い時期に、高次医療機関に転移させるべきであった、などと主張し裁判となりました。
■裁判所の判断
裁判所は、4月17日の時点で、多剤耐性の大腸菌と推認される菌が検出されていたこと、5月1日にはダックスフンド犬は40℃を超える高熱を発し、白血球数が異常数値を示していたと認定し、5月1日の時点で、プレドニゾロンを投与するか、または高次医療機関へ転院させる義務があったと判断し、獣医師がこの義務を怠ったため、ダックスフンド犬が間質性肺炎及びDICにが発症したと判断し、慰謝料20万円の支払いを命じました。
■まとめ
転院義務については、転院判断のタイミングが問題になります。
症状が軽く、疾患の特定が未了の段階では、経過観察が許される場合が多いですし、情報が不十分なままでは転院先との関係で問題が生じてしまうこともあります。
転院が必要と判断できる情報が十分に揃った段階では、既にタイミングを失しており、取り返しがつかなくなってしまっていることもあります。転院には、獣医師に非常に難しい判断が求められることになります。