獣医師のための問題と対策

トリミング・ペットホテル経営

1.はじめに

昨今、多くの動物病院で、トリミングやペットホテル業務を取り扱うようになっております。

トリミングやペットホテルは、同じように動物病院で行われるものですが、動物に対する治療や処置とは業務内容が異なるため、発生する問題も性質が異なる場合が多く、トラブルを未然に防ぐためには別途対策が必要と考えております。以下、それぞれ昨今問題となっているケースをご紹介し、ペットオーナー様とのトラブルを未然に防ぐためには、どのような対策が望ましいかについてご紹介していきます。

2.トリミング(グルーミング)について

  1. よくあるトラブル

    ア)施術中の怪我など
    トリミングの取り扱いのある動物病院では、通常、動物の毛を整えるのみならず、シャンプー、ブラッシング、爪切り、耳掃除などのいわゆるグルーミングも含めたサービスを提供されていると思います。
    病気の治療や手術というわけではないのですが、実際の作業には、ハサミや爪切りといった道具を用います。
    その結果、施術の最中に、毛を切るつもりが誤って動物の耳を切ってしまったり、爪切りで動物の皮膚を傷つけてしまったりという事態が発生し、ペットオーナー様よりクレームが出てしまうケースがございます。

    イ)逃亡など
    トリミングを受けに来る動物は、何らかの病気に罹患しているわけではないため、基本的には元気です。
    そのため、施術が終了した直後に動物病院から逃亡してしまい、外で交通事故に遭ってしまうというような事態が発生しえます。

    ウ)予約や仕事の完成について
    トリミングの場合、人間の美容院と同じように、予約制にしている病院がほとんどかと思います。その関係で、無断キャンセルが出てしまったり、カットが完了しても想定と違うというクレームが後から出て来てしまったりと、やはり問題も、人間の美容院と同じようなものが発生します。

  2. 対策について

    当方で、上記のようなトラブルを出来る限り未然に防ぎ、さらに、仮に発生したとしても、動物病院が過大な責任を負わされることがないよう、利用規約を用いて詳細なルールを定め、施術当日の申込書と併用することをお勧めしています。元気な動物は人間と異なり、基本的にじっとしていることが難しいものです。そのため、麻酔をかけずに処置を行う場合、動物が予想外の動きをした結果、誤ってけがをさせてしまったり、逃亡してしまったりするケースを100%防ぐことは困難です。

    当事務所では、このようなリスクがあることを事前にしっかりとペットオーナー様に御理解いただき、動物病院ではどこまで責任を負えるのかについて明確にしておくことが、トラブルを未然に防ぐことにつながり、さらに、実際にトラブルとなってしまったときでも、動物病院が過大な責任を負うことを避けることが出来ると考えています。

3.ペットホテルについて

  1. よくあるトラブル

    ア)ホテルへの置き去り
    ペットホテルにおいて最近、多く発生しているのが、オーナー様がホテルに預けたペットを迎えに来ず、そのままオーナー様と連絡が取れなくなってしまうというトラブルです。
    オーナー様と連絡がとれ、動物病院にペットの扱いは任せるという承諾が取れればまだよいのですが、連絡が取れなくなってしまうとこのような承諾すら得られないため、動物病院としては、預かり続けるしかなく、その間の食事代等の費用も負担しなくてはいけなくなってしまいます。

    イ)深夜の怪我など
    ペットホテルでは基本的に24時間体制で動物の世話をするわけですが、当直制度を設けている病院はわずかであり、通常、夜は無人になりますので、真夜中の監視には限界もあります。
    そのため、ホテルに宿泊させていた際、スタッフが誰もいない真夜中にペットが暴れて怪我をしてしまい、治療が遅れてしまうというケースも出てきます。オーナー様が、24時間見ていてくれると思って預けていると、どうしてもクレームとなってしまいます。

  2. 対策について

    当事務所では、ペットホテルに関しましても、お預かり証というような簡単な書面ではなく、オーナー様がペットを迎えに来なかった時の対応や、動物病院側ではお預かり中にどこまでの対応が可能なのかということ等を明確に定めたホテル利用規約を併用することをお勧めしております。

    ペットを迎えに来ないオーナー様がいること自体、大変残念なことなのですが、今後も一定割合いらっしゃることが予想されます。そのため、当事務所では、迎えにいらっしゃらないオーナー様への対応をあらかじめ明記し、そのような事態が発生した時に、病院側で対応を迷わないようにしておくことが重要になると考えております。

4.まとめ

以上のように、お客様の病院でトリミングやペットホテルも取り扱われている場合、トラブルを未然に防ぎ、実際に発生してしまったときに動物病院側が過大な責任を負うことを避けるためには、利用規約という形で詳細なルールを定めておくことが重要になると考えております。

繰り返し利用されるオーナー様も多いので、ご負担を最小限とするために、取り交わし方法も工夫する必要があるところです。

当事務所では、利用規約や申込書の内容のみならず、書面の運用方法についても一緒に検討させていただきます。

ご不安がある場合には一度ご相談ください。