ペットオーナーからのクレーム対応
1.はじめに
獣医師の先生方からのご相談で一番多いのが、このオーナー様とのトラブルです。
オーナー様とのトラブルの内容は様々ですが、ペットが亡くなったことをきっかけとして、獣医療のミスを主張されたり、処置のリスクが顕在化したときに、事前に説明がなかったと指摘されたりすることが典型で、程度の差はあれ、多くの先生方は、何らかのご経験があるのではないでしょうか。
ただ、こういったトラブルに関しては、対応を誤りますと、より大きなトラブルに発展しかねません。また、トラブルの性質上、先生方ご自身で対応することには限界があるケースもあります。当事務所はオーナー様とのトラブルに関し、多くの経験がありますので、その経験を踏まえて、オーナー様にどう対応していけばよいのかについて解説していきます。
2.オーナー様とのトラブルで気をつけなければならないこと
ご自身もしくはスタッフによる長期間の対応
オーナー様とトラブルが生じてしまった場合、獣医師より説明を尽くすことで、オーナー様にご納得いただければそれで良いのですが、中には、オーナー様から繰り返し攻撃的なことを言われる、何度説明をしても理解してもらえず、長時間の対応が必要になる、他のオーナー様もいる前で、大声を出される、といったケースも見受けられます。オーナー様も可愛がっていたペットが亡くなる等、不幸な結果が生じてしまった場合は、どうしても悲しみや怒りの矛先を目の前にいる獣医師に向けやすいです。
ただ、このような場合、先生方ご自身で対応することは相当な負担です。特に、感情的になっているオーナー様への対応は、精神的にも非常に辛く、その中で日々の診療を続けることは、それこそ医療ミスにつながりかねません。また、オーナー様からの電話等を最初に受けるスタッフも、対応に慣れている方は少ないでしょうから、疲弊してしまい、最悪、退職してしまうということにもなりかねません。
このような事態にならないためにも、長期間にわたってご自身で対応することはお勧めいたしません。
安易な謝罪や金銭の支払い
ご自身での対応は負担が大きいため多くの先生方は、何とか穏便に、早く解決しようとして、その場を収めるために、オーナー様に謝罪文を書いて渡したり、言われるがままお金を支払うというケースが散見されます。ただ、これらの行為は非常にリスクのある行為で、収まるどころかより大きなトラブルに発展してしまうこともあります。
獣医師の立場からすると、謝罪もし、お金も払ったのだから、誠意も伝わって、分かってくれるだろうと考えがちですが、オーナー様からすると、必ずしもそうではありません。オーナー様からすると、獣医師が謝罪もし、お金まで支払ってきたのだから、やっぱり何かミスがあったのではないか、何か他にも後ろめたいことがあるのではないか、○○ちゃんは、本当は亡くならずに済んだのではないかと感じてしまい、一層トラブルが続いてしまうことがあります。
このように、解決につながらない可能性が高いため、安易に謝罪をしたり、お金を支払ったりということもお勧めしておりません。
3.オーナー様への適切な対応
こういったケースで大切なことは、いたずらに謝ったり、言われるがままお金を支払うということではありません。まずはペットに何が起きたのか、何故残念な結果が生じてしまったのかを丁寧に分かりやすく説明をするということです。感情的な発言をしていたとしても、ほとんどのオーナー様は、最終的にはそれを望んでいます。ただ、感情的になっているオーナー様を前に、ミスを咎められている中、当事者である獣医師がそれを冷静に行うのは、なかなか難しいです。また、獣医学的に正しい説明をすることとオーナー様がそれを理解できること、納得できることはイコールではなく、各々のオーナー様に合わせた説明が必要です。さらに、獣医師への不信感があると、どうしても獣医師からの説明自体、オーナー様は受け止めることができず、やはり理解を得られないということもあります。
4.弁護士の利用
そこで、こういったオーナー様とのトラブルに際しては、早期に弁護士に依頼されることをお勧めします。先生方からはよく、裁判になっている訳でもなく、具体的にお金を請求されているわけでもないのに、弁護士に頼んで良いのか、というご質問をいただくこともあるのですが、全く問題ありません。当事者同士が冷静に話すことができないときに、間に入って、起きてしまった事態を分かりやすくオーナー様に説明し、トラブルが裁判等に発展してしまうことを未然に防ぐことも大切な弁護士の仕事です。
また、先ほど謝罪やお金の支払いについてのリスクを記載しましたが、どんな場合でも絶対に謝罪したり、お金の支払いをしてはいけないという訳ではありません。本当に何か過失があったのであれば、そのことについて謝罪をしたり、それに対する適切な金額の賠償をするということはもちろん必要です。ただ、こういったことは、法的な判断であって、先生方がミスだとお感じになったとしても、意外と法的には過失といえるものではないこともよくあります。また、仮に明らかな医療ミスがあり、何らかの金銭賠償が必要であったとしても、その金額がいくらになるのかということは、軽々に判断できることではありません。さらに、話し合いでお金を支払うことになったとしても、何の書面も交わすことなく漫然と支払ってしまったのでは、追加請求されるリスクが残ってしまい、トラブルの終局的な解決にはなりません。これは、獣医師はもちろん、オーナー様にとっても望ましいことではないです。
そのため、仮に謝罪やお金の支払いが必要なケースであったとしても、ご自身で判断することには相応のリスクがあり、その要否や額、支払い方等については、やはり法律の専門家である弁護士が間に入る必要性は相当高いといえます。
5.最後に
どのようなトラブルでもそうですが、医療と同じで、事が大きくなる前に、できるだけ早い段階でご相談いただいた方が、解決はしやすいですし、差し上げられるアドバイスも多いです。
オーナー様に指摘されたことが気になっている、具体的にミスを指摘されたわけではないが、カルテを見せてほしいと言われてしまった等、オーナー様に不信感を持たれていて、今後トラブルになりそうな気がするといった段階でも全く構いません。
お悩みの先生は是非一度、当事務所までご相談ください。